刊行記念インタビュー
『実践 経営実学 大全』
(株)名南経営コンサルティング
定価
6,264円(本体 5,800円+税)
発売日:2017年8月1日
8月1日に発行された『実践 経営実学 大全』。東海地方を代表するコンサルティングファームである名南経営が、経営者向けのセミナーとして開講してきた『名南経営者大學』を基にまとめた430ページにも及ぶ大作。いったいどんな想いで刊行されたのか ──。
“自利利他”の精神で歩むコンサルティングファーム
── 御社は、1966年に税理士事務所として創業され、現在は経営に関するあらゆる専門家を擁するコンサルティング・ネットワークに成長されています。どのような理念に基づいて、税理士事務所から総合コンサルティング会社へと展開されたのでしょう?
永井 創業者・佐藤澄男が税理士事務所を開業した当初から、私どもは
『自利利他』という精神で歩んでまいりました。これは、
「利他の実践がそのまま自分の幸せである」という、伝教大師最澄が唱えた考え方で、お客様のためになることなら何でもやる、という精神です。
この理念が先だったのか、創業自体が先だったのかは定かではありませんが、創業者の佐藤が税理士として顧問先様の相談に乗る中で、税務以外の困りごとを抱えた中小企業が非常に多いことに気づいたんですね。そういった中小企業の悩みに、ワンストップで対応ができればもっと喜ばれるだろうと。そんな考え方を持っていたようです。
佐藤本人も、社労士・不動産鑑定士・行政書士や他の資格も持ったうえで事業をしていましたから、お客様から必要とされる中で経営コンサルティングを総合的に行うような体制を整えてきたんですね。この拡大の中で、改めて『自利利他』の考え方は企業理念として徹底され、お客様第一の考え方が貫かれて現在に至っております。
永井晶也(ながい まさや)
株式会社名南経営コンサルティング 取締役
マネジメントコンサルティング事業部 統括部長
株式会社名南財産コンサルタンツ 取締役
1967年生まれ、愛知県出身。
中小企業の経営戦略、組織戦略、財務戦略の立案および実行支援を得意とする。
── 現在、どのくらいの専門家が所属されているのですか?
永井 私どものスタッフは、海外も含めますと480名にもなります。
その中に、税理士・公認会計士・中小企業診断士・社会保険労務士・行政書士・司法書士・弁護士・不動産鑑定士といった、中堅・中小企業をサポートする多くの専門家を抱えております。
現在、税理士・社会保険労務士・弁護士を中心に、100名以上の専門家が活動しています。
── 御社の『名南経営者大學』という研修は、これまでに500名を超える経営者が受講されたそうですが、どのような思いで立ち上げられたものですか?
永井 もともと『経営者大學』は、日本LCAという会社がコンサルティングツールとして販売していたものです。我々も、名古屋や東海地区の経営者に向けて、経営コンサルティングを進めるためにこういったツールを活用させていただいたんです。
当然、経営者の方々に経営ノウハウをしっかり学んでいただき、成長していただきたいという想いがあってのことです。
開始当初は、ビデオを流して日本LCAの先生が解説をしてくださる形式でした。ですが、日頃からお客様のコンサルティングを行っている状況ですから、そのノウハウも活かしながら自分たちでも講師として壇上に立つようになり、オリジナリティが増していったように思います。
『実践「経営実学」大全』刊行への想い
── 今回執筆いただいた『実践「経営実学」大全』は、『名南経営者大學』の基本構成と御社のノウハウを元にしているとお聞きしています。改めて、執筆に至った動機を教えてください。
永井 動機は…編集者の熱意ある勧誘ですね(笑)
とは言っても、お話をいただいた当初は一度お断りした経緯があります。先ほどお話したように、『経営者大學』自体が、私どものオリジナルのものとしてスタートしたものではありませんから。
それでも引き受けた理由は、いくつか思い当たります。
私どもの考えや経営ノウハウといったものを、経営者にしっかり伝えることが「気づき」や「学び」に繋がり、会社の経営が良くなっていくのならそれ以上嬉しいことはないわけです。
今までは「研修」という形で経営者の皆様にお伝えしてきたわけですが、研修という場だけでは限界があります。研修を受けるだけでなく、時には座学で経営者自身がしっかり考え学んで欲しいんですね。
それに、研修を受けていない世のもっと多くの中小企業の皆様に、私どもの経営ノウハウを知っていただきたいという思いもあります。書籍の形であれば中部地方に限らず、各地の中小企業の経営者の方にもお伝えできる機会になるかもしれません。書籍を世に出すという事は、考え方を伝える非常に有効な手段だと思うんです。
さらにもう1つ、経営者が身に付けた経営手法の「継承」に、書籍が役に立つという側面も考えられました。
経営コンサルティングは経営者・経営陣に対して行っておりますが、経営者が得たノウハウというのは属人的になりがちで、次代に継承していくのはなかなか難しいものです。
後継者や経営幹部に改めて研修を受けていただき、研修のテキストを読んでいただくという形ももちろん良いのですが、書籍という形にまとまったことで
組織の中での「教育ツール」としても使っていただけるのではないかと期待しています。
いずれにしても、当初はお断りした執筆ですが、結果的に企業様の成長発展に寄与する手段になるわけですから、書籍化は意義のあることだと感じております。
── 書籍としてまとめる際に、留意した点はありますか?
永井 内容が経営全般に亘っていますので、各分野の説明は要点に絞って、分かりやすくコンパクトにまとめるというあたりには苦労しました。本来なら、1つ1つのテーマごとに1冊ずつ本にできるくらい、掘り下げができてしまう内容なんです。
『実践「経営実学」大全』の効果的な使い方
── 本書をどんな人たちに読んでもらいたいですか? また、どういう読み方をして欲しいとお考えでしょうか。
永井 まずは中堅・中小企業を経営する皆様です。
内容的には経営全般の事が書いてあります。HowTo的な部分が多いのですが、前段の概論の部分などに我々の考え方や理念を盛り込みました。経営者の方には、私どもの考え方や理念の部分を中心に読んでいただき、経営者としての「経営者マインド」をもう一度奮い立たせていただきたいですね。そのうえで、自分の会社で実際に試行錯誤していただくのが良いかと思います。
もう1つは、上を目指すサラリーマンの方でしょうか。
幹部であっても、一社員として永年勤務してきただけでは、経営者や経営陣が持っている経営マインドというのはなかなか分からないものです。それに気づくまでに時間もかかりますし、実際に経営者と触れていないと分からないことが多いと思います。
そこで、こういった本をサラリーマンであっても幹部や次代のリーダーたちに読んでいただくと、経営者の考え方や経営の在り方がイメージできるようになると思います。本人たちの学び・成長にもなりますし、経営者との信頼関係を構築するための一助にもなるのではないでしょうか。
経営者の皆様は是非、次代の幹部たちにこの本を読ませてあげてください。─そうなると、経営者の側もしっかりとした考えと覚悟で経営しないと、見透かされてしまいますね(笑)
── 経営マインドを奮い立たせてほしいというお話がありましたが、これは経営者としてのキャリアをある程度積んだ方に向けてのことかと思います。これから事業を起こす方・若い経営者の方の場合は、どう使っていくのが良いでしょうか。
永井 「形から入る」ということで良いのではないでしょうか。
若い起業家や経営を継ぐ後継者は、創業者と比べると環境も考え方も大きく違う中で育っています。多くの場合、質の高い教育を受けていますから、基本となる経営の考え方を書籍でしっかり学んで、そのうえで組織の中で実践してみていただくと良いかと思います。
でも、座学で得た「知識」だけでは、組織の中ですぐにうまくはいかないでしょう。正しい知識のはずなのに、ベテランの経営陣からダメ出しを受けるかもしれません。
そういうときに、現場で得た経験を活かしながらまた本を読み返し、改めて現場でチャレンジしてみる。そういった試行錯誤に使っていただくと良いと思います。
中小企業が目指すべき、これからの経営
── 労働人口が減少するなか、政府主導で「働き方改革」が推進されています。10章で人事評価や社員教育について述べられていますが、これからの経営者はどのような考え方で人事労務管理に取り組むべきでしょうか。
永井 難しい問題だと思います。昨今の若い人たちは、(単なる条件ではなく)仕事に対してより働き甲斐を求める傾向にあります。ですので、根本的には仕事を通じて、やり甲斐・働き甲斐が醸成できるかどうかという点が、優秀な人材を確保できるかどうかのカギだと考えます。
私どものお客様の事例ですが、これからの中期計画で「自動化」を積極的に進めていこうという会社があります。この会社は、単に「人手不足だから自動化で対応しましょう」という考え方をしません。そもそも、社員にやり甲斐・働き甲斐が生まれるような仕事をさせていないのではないか、という問題意識から、機械でもやれるような仕事は自動化し、そこで手の空いた人には、本当に人でしかできない創造的な仕事をしてもらおうという考え方に至ったのです。
こういう考え方ができる会社は、そうでない会社に比べて、格段にやり甲斐・働き甲斐が生まれやすいと思うのです。
少子化で人手不足だというなら、せっかく入社した優秀な社員にはできるだけ長く勤めてもらわなくてはなりません。そのためには、できるだけ大きなやり甲斐・働き甲斐を生み出すための具体的な取り組みができるかどうかが重要です。やり甲斐・働き甲斐を感じながら経験を積み、会社とともに成長していったならば、必ず仕事へのモチベーションにも繋がります。
中小企業でも働き甲斐を生み出すことは、考え方ひとつでいくらでもできます。ここに経営者がしっかり向き合うかどうか、これが重要ですね。
── 最後に、中堅・中小企業の経営者の方に向けて、メッセージをお願いします。
永井 中小企業は、一部の儲かる企業とそうでない企業とに、二極化が進んでいます。自社の経営に自信を持てない経営者が増えていると言えるかもしれません。
例えば、自分の息子に自信を持って「うちの会社で働け」と言えないような、そんな状況も見受けられますし、会社を続けることを諦めつつある方々もいます。
精神論だけではいけませんが、経営の素晴らしさに経営者自らが向き合って、前向きで「ツキ」のある経営者となれれば、もっと中小企業は活性化するように思います。企業の99%は中小企業ですから、経営者がポジティブで自信を持った経営に邁進すれば、もっともっと日本は良くなるはずなのです。1人ひとりの経営者の方にぜひそういう気持ちを持っていただきたいと思います。
この本を通して、改めて経営や経営者の在り方について学び直し、新たな気づきを得る─。そういう使い方で、「こういうやり方なら先が見えそうだな」とか「これなら何とかやれそうだな」といった具合に、経営に対する自信を取り戻していただきたいですね。